[ハチに刺されたら]

(朝日新聞  2010年8月19日)
高山義浩(感染症医)


日本にはミツバチ、アシナガバチ、スズメバチなどが多く生息しています。
お盆が過ぎた今あたりから秋にかけてハチは活発になり、山への行楽などで
被害を受ける方が増えてきます。
とくに藪をかきわけて進むような場所では要注意です。
ハチ刺されの予防は、こうした場所に不用意に侵入してハチの巣に遭遇しない
ことが大切です。


リスクを覚悟で藪に入るときは、軍手を着用し、帽子をかぶり、できれば
長袖のシャツを着るのがよいでしょう。
ハチは黒いモノに向かって攻撃する習性がありますから、帽子や服は明るい
色にしてください。
また、化粧品や理髪剤、制汗剤などの香りはハチを刺激することがあるので、
使用しないか、無香料のものを選んでください。
甘い匂いのするお菓子やジュースを飲み食いしながら山歩きをすると、ハチを
呼び寄せることがあります(他のムシもそうですけど・・・)。
ハチを見かけたら、バッグの中にしまいましょう。


ハチに刺されてしまうと、その部位に強い痛みを感じるので、だいたい皆さ
ん「ハチに刺された!」と自覚されますね。
最初にすべきことは、その場を離れることです。
刺された場所で騒ぐのは最悪です。
なぜなら、他のハチも連鎖して攻撃モードになっている可能性があるから
ですね。
刺された子供が泣きだしたら、抱えて現場を離脱させましょう。


さて、あとでお話しする「アナフィラキシー」の症状がなければ、ハチに
刺されたというだけで病院を受診する必要はありません。
もちろん、痛みや腫れが強ければ緩和する塗り薬を病院でもらうことができ
ます。

応急処置も特別なことは必要ありません。
腫れと発赤は1週間程度で治ります。
まあ、受傷直後であれば刺し口をイソジンなどで消毒すると化膿を予防できる
かもしれませんね(直後の1回だけでいいです)。
針が皮膚に残っている場合には、押し込まないように注意して、ピンセット
などで取り除いてください。

お年寄りなどから、「ハチ刺されにはアンモニア(ときに尿!)を塗ると
よいんだよ」って教えられることがありますが、私の知る限りにおいて
医学的な根拠はなさそうです。
ただ、高濃度でない限り、アンモニアを塗ったから悪いってこともないと
思います。
田舎でお婆ちゃんが「おやまぁ、ハチに刺されなさったね。アンモニアが
いいんだよぉ」と優しく塗ってくれようとしたら、そこは素直に塗って
もらったら良いんじゃないでしょうか?

医学的根拠がないというのは、単に効果が証明できていないというだけのこと
です。
お年寄りがよいと思っていることに、科学が追いつけていないだけかもしれ
ませんね。
そのあたりの謙虚さが(とくに医者には)必要だと私は思っています。



ハチに刺されたあとで、放置してはならず、西洋医学に頼るべきは
「アナフィラキシー」です。
以前、ハチに刺された経験のある人が再度同種のハチに刺されると、全身型の
アレルギー反応を起こす場合があります。
具体的には、15分以内に気分が悪くなったり、息苦しさを感じたりします。
逆に30分以内にそうした症状が出現しなければ、アナフィラキシーの心配は
いりません。

こうした症状を認めたときは、ひとりで座り込んで休むのではなく、周囲の
人に声をかけるなどして、必ず病院を受診するようにしてください。
放置すると、最悪の場合、死亡することもあります(日本国内で年間30名
程度)。


子供の場合は腹痛を訴えたり、ぼんやりしたり、何も言わなくなったりと様々
ですから、ハチに刺されたら注意深く見守ってあげましょう。
そして、唇が青くなったり、喘息のように「ヒューヒュー」という呼吸を
しはじめたら、本人の訴えが軽そうでも、急いで病院に連れて行きましょう。
近くに大きな病院がなければ、(開いているなら)村の診療所でも結構です。
最初の応急処置ができれば、随分違います。


重症だと救急車を呼ぶべきか悩むかもしれませんが、救急車でできることには
限りがあります。
すぐに動かせる車があるなら自分で連れて行った方が早いかもしれません。
この場合、後部座席で横にさせるよりは、助手席に座らせた方が呼吸状態を
維持できる可能性が高まります。


「随分」とか、「かも」とか、「可能性」といった、中途半端な言葉を重ねて
すいません。
でも、医療ってのは「絶対」というのがないんです。
より良い「可能性」を重ねることで、生存のチャンスを高めてゆくのが医療
なんだとご理解ください。



なお、アナフィラキシーになったことのある人が、次に刺されたとき再び
アナフィラキシーになる確率は約50%と言われています。
そういう人のため、アナフィラキシーに即効性のある自己注射用キット
「エピペン」というお薬があります。
登録された処方医師による説明と同意のうえ、ご自身の判断で自分に注射する
ことが可能となります。
山に入るなどハチに刺されるリスクがあるときは、これを持参するとよい
ですね。
詳しくは、こちらのサイトをご覧ください。



https://aspara.asahi.com/blog/border/entry/FxyRR4EJqc
   

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