消えないシックハウス:/中 優良規格建材で児童不調
[消えないシックハウス:/中 優良規格建材で児童不調]]
(毎日新聞 2011年1月18日)
<「F☆☆☆☆」も防げず メーカーは換気促す>
岩手県南部・奥州市の市立胆沢第一小学校(児童415人)で昨年7月中旬~
10月初め、校舎の使用が全面的に中止された。
前年度からの大規模改修工事で、教室の壁や床など内装材を一新したが、
体調不良を訴える児童が相次いだためだ。
当時4年生の女児が、最初に頭痛を訴えたのが3月初め。
工事から出る化学物質が原因、との医師の診断書が提出され、翌4月には
新4年の男児も、同様の症状を訴えた。
市教委は大型扇風機などで換気を強化し、工事途中で接着剤の種類も替えた。
だが、ホルムアルデヒド、トルエンなどの「特定測定物質」5物質の濃度を
測っても国の指針値を超える値は出ず、原因は不明だった。
その後も児童が相次いで体調を崩し、7月にようやく教室の使用が中止に。
市長は市議会で陳謝した。
結局、不調を訴えた児童は74人に上り、22人がシックハウス症候群と診断
された。
診断を受けたある女児の父親は「娘は頭痛を抱えながらも通学し、重症化して
しまった。しばらくは歩いて通えなかった」と話し、別の女児の母親は
「子どもはシャンプーでさえ、気分が悪くなった。だるい時は、周囲には
怠けているように見えてしまい、つらい」と訴える。
同市教委の及川敏幸・学校建設推進室長補佐は「シックスクールが起きるとは
『まさか』という感じだった。国の基準をクリアした『F☆☆☆☆』(エフ・
フォースター)規格の建材を使えば、問題は起きないと考えていた」と肩を
落とす。
「F☆☆☆☆」の「F」はシックハウスの原因となるホルムアルデヒドを
指し、星の数が多いほど放散量が少ない。
ホルムアルデヒドは建築基準法で規制されているが、最良の4つ星
「F☆☆☆☆」は使用面積に制限がなく、今はこの規格の建材を使うのが
業界標準だ。
「F☆☆☆☆使用でシックハウス対策も万全」などとうたった分譲住宅の
チラシも目立つ。
だがF等級は、ホルムアルデヒド以外の化学物質は無関係。
シックハウス対策に詳しい京都市北区の建築士、渡辺公生さんは「建築関係者
でもF☆☆☆☆さえ使えばシックハウス対策はOK、と思っている人が多い。
室内と関係ない外装にF☆☆☆☆を使ったとPRする業者もあり、いかにシック
ハウス問題が理解されていないかを示している」と嘆く。
昨年12月に横浜市で開かれた「室内環境学会」では、耳慣れない化学物質が
原因のシックハウスが相次いで報告された。
北海道立衛生研究所の小林智・生活保健科長らのグループは、道内の
マンションや小学校で使われた水性塗料から、高濃度の「テキサノール」が
揮発していたと発表。
塗料は「F☆☆☆☆」だったが、マンションを購入した30代の女性は入居
直後、気分が悪くなり実家に戻った。
空気調査に立ち会った際も、立っていられなかったという。
無色無臭の「イソドデカン」や、「2エチル1ヘキサノール」などの検出例も
報告され、いずれも「F☆☆☆☆」の建材を使った建物からだった。
小林さんは「問題の中心は、ホルムアルデヒドなどから規制外の物質に移って
いる」とし、「どんな毒性があるか分からない物質を使うより、トルエンなど
特性が知られたものを注意して使った方がましかもしれない」と問題の
複雑化を指摘する。
塗料メーカーでつくる「日本塗装工業会」の和田英男・製品安全部長は
「ホルムアルデヒドやトルエンを放散する樹脂や添加剤を避け、ミネラル
スピリット(シンナーの一種)などの弱溶剤が代用されている」と説明。
「室内で使う時は有機溶剤系でなく水性塗料を勧めているが、水性でもVOC
(揮発性有機化合物)はゼロではない。業界団体で塗装後の換気を促す
張り紙を作成しており、工事関係者や利用者への周知に努めている」と話す。
シックハウスの原因物質の多様化は、診断や治療も難しくしてしまう。
宮田幹夫・北里大名誉教授は「最近はシックハウスの影響を示す眼球運動に
異常が見られるのに、ホルムアルデヒドやトルエンの測定値には問題のない
ケースが大半」という。
「原因物質が不明でもシックハウスは起きていることを、社会が認める時期に
来ている」と訴えている。
【田村佳子】
http://mainichi.jp/life/health/news/20110118ddm013100017000c.html