[医のかたち「食べる力」・・・栄養サポートチーム(NST)]
(朝日新聞 2010年6月3日)
医のかたち「食べる力」
病気を治すには、医師の診療と薬だけではなく、十分な栄養が欠かせません。
病気の種類や症状に応じて食事の内容を細やかに管理できれば、回復を早める
こともできます。
そこに着目し、専門スタッフでつくる「栄養サポートチーム」(NST)が、
各地の病院にできています。
鳥取市立病院の取り組みから、患者の回復に欠かせない「食べる力」の引き
出し方を取材しました。
(中村瞬、錦光山雅子)
<「口から」特に重視>
5月27日正午。
鳥取市立病院の一室に、昼食を手にしたチームのメンバーが次々集まった。
「さっき、急に依頼をもらったんですが・・・・・」
患者の情報が入ったパソコンを見ながら、看護師の土橋操さん(46)が話し
始める。
太もも骨折で2日前に手術した90代の女性患者。
手術疲れか、食事をほとんど残すという。
麻酔科医の鍔木紀子さん(52)が「とりあえず点滴を入れるしかないね。
来週も続くなら、ちょっと考えないといけない」と答える。
同病院は約4年前からチームを組んだ。
医師や看護師のほか、管理栄養士、言語聴覚士、臨床検査技師など19人が
週1回、会議を開き、患者を見回る。
栄養状態の悪い高齢の入院患者を中心に、これまで240人の栄養を管理して
きた。
鍔木さんは「栄養管理は、治療の基本の『き』。食べられないと、患者は
生きる気力も失いかねない。そうならないためにできることを考えるのが
役割」と話す。
同病院のチームは、口から食べることを特に重視する。
2007年、60代男性が転落事故で頸椎を損傷し、手術を受けた。
直後から男性は食べると嘔吐を繰り返した。
神経が傷み、飲み込む力が弱まったためだ。
鼻から管を通し栄養をとったが、男性は「食べる」ことを強く望んだ。
数日後から、言語聴覚士の松島初美さん(51)は看護師と、飲み込む力を回復
する訓練を始めた。
発声させたり、冷たい綿棒でのどの奥をつついて刺激を与えたりした。
管理栄養士の磯部紀子さん(51)にはどんな食事なら取れる状態かその都度
伝えた。
磯部さんは、舌の裏やのどの奥に食べ物かすが残らないよう、普通に近い
献立を細かく砕いて用意。
気管に入らないよう、適度に粘りもつけた。
食事で足りない栄養は管からとり、2カ月で、男性は一般の患者と同じ食事が
食べられるようになった。
松島さんは「食べたいという強い思いが、早い回復につながったのでは
ないか」とみる。
口のチェックで新たな病気を防ぐ取り組みも始めた。
飲み込む力が衰えると、食べものが誤って気管に入る「誤嚥」を起こし
がちだ。
口の中の雑菌も肺に入り、誤嚥性肺炎を起こす例も少なくない。
昨年だけで通院・入院計600人の患者に誤嚥性肺炎とみられる症状があった。
このため今年4月、新たに歯科医師の目黒道生さん(36)が加わり、口の中の
雑菌量、唾液の分泌量、飲み込むための歯や舌の機能の状態を調べている。
「口のケアは治療の入り口。それが不十分なために、病気やけがを治すために
入院したはずの病院で誤嚥性肺炎にかかって容体が悪化するという、負の
連鎖を断ちたい」と話す。
<背景に患者の高齢化>
栄養サポートチーム(NST)は1990年代後半から国内で始まった。
「日本栄養療法推進協議会」は、全国940施設を認定。
うち、中国地方では約100=表=が活動する。
関連学会が独自に認定した施設も入れると、全国で1,500以上になる。
広がる背景の1つは、患者の高齢化だ。
医療水準が高まるにつれ、以前なら手術をあきらめていたような年齢や容体の
お年寄りでも、負担の重い心臓病やがんの手術が可能になった。
ただ、手術は成功しても、高齢のために家に戻れる状態まで回復できず、
長い間入院したり、感染症を起こしたり、退院後も寝たきりになったり、と
いう例が増えた。
このため、必要な栄養をしっかりとって回復を早める方法が見直され、
結果的に入院期間の短縮にもつながった。
国も2006年度からNSTが取り組んでいるような活動に報酬を払うように
なり、NSTの増加を後押しした。
退院後も自宅で療養が必要なお年寄りのため、医療機関や介護スタッフらが
連携し、「在宅(地域)NST」を組織する地域も出てきている。
「全国国民健康保険診療施設協議会」のまとめによると、全国約900の国保
診療所・病院の約3割が在宅患者に栄養サポートをしていた。
「在宅チーム医療栄養管理研究会」代表で管理栄養士の佐藤悦子
さんは「退院後、パンと牛乳しか食べず、再入院する例も少なく
ない。食事の改善は手間がかかり、家族も敬遠しがち。地域で
支える必要がある」という。
<記者より>
栄養を取る方法は点滴などもあるが、鳥取市立病院のNSTはチーム
一丸で、患者が食物を口にすることが出来る可能性を何とか見つけ
ようとする。
大食漢の私は暴飲暴食もしばしばで、現在、虫歯治療のため歯科に
通院中。
食べられなくなるなんて考えたこともなかったが、「食べる」と
いう行為の大切さをかみしめた。
(中村)
http://mytown.asahi.com/hiroshima/news.php?k_id=35000631006030001