[舌痛や味覚異常]

(朝日新聞 田辺功の医療よもやま話 2010年5月13日)


今回は、舌痛や味覚異常を考えてみます。

山梨県の70代男性からのご質問です。
「舌の右側面が痛みます。歯科では、噛み合わせ異常なしで、口腔外科でも
腫瘍は認められず、原因がわかりません。どの診療科にかかればいいで
しょうか。辛いものを食べると痛みが走ります」

また、神奈川県の70代男性からは、こんなお便りをいただきました。
「3カ月ほど前から口の中に苦みがあり、味覚がすべて薄味に感じます。何を
食べてもおいしくありません。原因と対策をお願いします」


症状から予想されるのは、お2人とも、典型的な「亜鉛欠乏症」だと思い
ます。
  「食事がおいしくない」
  「食べ物の味がわからない」
  「口の中が苦い」
という訴えが代表的です。
亜鉛は微量元素ですが、不足をすると、舌にある味細胞の働きが低下します。

日本大学名誉教授で現在、東京都練馬区で開業されている冨田寛先生が亜鉛
欠乏症に関する先駆者です。
診療科は耳鼻咽喉科ですが、くわしい先生は一部だと思います。


この亜鉛欠乏症が予想以上に多く、味覚異常以外の多彩な症状があることを
指摘したのは長野県の東御市立みまき温泉診療所の倉澤隆平医師らです。
7 〜8 年前に気づいたばかりで、まだまだ少数説の扱いですが、データに
説得力があり、私はいずれ定説になるのではないかと考えています。
この説によると、亜鉛欠乏症は、
  ・食欲不振や拒食
  ・舌痛
  ・かゆみなどの皮膚症状
  ・傷の治りの遅れや褥創(床ずれ)
にも大きく関わっているということです。


亜鉛欠乏症かどうかを確認するには、血液中の亜鉛量を測定します。
採血し、検査センターに頼めば、どこの医師でも可能です。
血清亜鉛の基準値は65から110 です。
倉澤さんによると、午前10時ぐらいまでの採血で80以下であれば、9 割以上は
亜鉛欠乏症と診断できるそうです。
亜鉛値はなぜか、午後になると低下するといいます。


長野県の各地域で測定をしたところ、1 割から2 割もの住民に欠乏症の疑いが
ある、という結果だったそうです。

「何となく食欲がなく、元気がない」というお年寄りの方はひょっとしたら、
と考えて検査を依頼してみてはいかがでしょうか。


亜鉛欠乏症は、カキなどの貝類、牛肉、カニなど亜鉛を多く含む食品を
食べると改善しますが、倉澤さんらは、プロマック(ゼリア新薬工業)と
いう、亜鉛を含む胃潰瘍治療薬を処方しているそうです。


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