「予防」支える訪問診療 夕張のお年寄りに笑顔
[医師不足と闘う(4) 「予防」支える訪問診療 夕張のお年寄りに笑顔]
(読売新聞 2007年9月12日)
夕張市南清水沢の本間きくのさん(96)方で、夕張医療センター長の村上智彦
医師(46)が、きくのさんの手を握った。
ベッドに横たわるきくのさんの表情が、みるみる笑顔に変わる。
介護する末娘の安子さん(51)も「あら、私にはそんないい顔、見せない
のに」とほほえんだ。
10分ほど談笑し、胸に聴診器を当てる。
「大丈夫だけど、風邪をひかないよう注意して」
村上医師はそう言って、少し古びた乗用車に乗り、次の患者宅に向かった。
村上医師は2000年から6年間、檜山の旧瀬棚町(現せたな町)の診療所長を
務めた。
1990年代初めまで全国ワースト1だった町の老人医療費を、2002年には半減
させた。
その鍵は地域・行政・医療機関が連携して住民の健康維持に取り組む
「予防医療」だ。
「患者が来ればすぐ検査、投薬するのではなく、まずじっくり話を聞く」
食事や生活習慣はもちろん、家族の病歴から遺伝や感染が疑われる場合も
ある。
肺炎になれば治療に1人約25万円かかるが、早期予防で病人が減れば、
医療費も削減できる。
予防接種の公費補助を町に訴えて実現し、全国の自治体にもその取り組みが
広まった。
当時副所長だった町立瀬棚診療所の吉岡和晃所長(37)は「今も住民が予防
接種や健康診断を受ける率は高く、健康を守る意識が根付いている」と語る。
財政再建中の夕張では、予防接種の公費補助は実現していないが、予防医療の
柱の1つが、4月から始めた「訪問診療」だ。
在宅療養の患者宅まで村上医師と看護師が定期的に出向く。
通院がつらい患者を助けるサービスだが、実は財政破たんに伴い、市立総合
病院が診療所(医療センター)に“格下げ”されたことがきっかけとなった。
24時間の往診体制を整えている診療所には、国から支払われる診療報酬の優遇
措置があり、訪問診療もその対象となる。
過疎地の医療を支えるための措置だ。
村上医師は、車いすで通院するお年寄りなどに「家まで診に行こうか」と声を
掛け、現在約20人が月2回ほど訪問診療を受ける。
夕張のまちは細長く、回るのは時間もかかるが、ほかの医師2人も加え、
もっと増やしていこうと考えている。
市立病院時代のベッド数は171床。
今は医療センターが19床で、併設の介護老人保健施設を合わせても59床に
減った。
医師、看護師や診療科も減り、人工透析の患者は市外に通院せざるを得なく
なった。
それでも、村上医師は「診療所になったことは、予防医療という点では有益
かもしれない」と話す。
入院ベッドや診療科が少なければ、日ごろから健康維持に努めなければ
ならない意識の大切さを、住民と共有できる側面もあるからだ。
「市立病院のときも(看護師による)訪問看護はあったけれど、お医者さんが
来てくれる安心感は全然違う。介護する私も助かっている」と、安子さんは
感謝する。
夕張市の高齢化率は約4割と高く、いわゆる「老・老介護」も少なくない。
介護者の健康維持も重要だ。
人口流出が続けば、医師だけでなく、介護者の確保もままならなくなる。
夕張に限った問題ではない。
患者を待つのではなく、つくらない医療——。
その有効性を信じ、村上医師の奮闘が続く。
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/hokkaido/kikaku/128/4.htm
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