[ワクチン:吸う・張る・飲む  痛くないワクチン]

(毎日新聞  2009年12月22日)


新型インフルエンザの流行で、改めて注目が集まるワクチン。
怖くて泣く子どもや、大人でも思わず顔をしかめて「注射」を受ける
イメージが強い。
だが、皮膚に張ったり、飲むだけの「痛くない」ワクチン開発も進んでいる。
利点や開発の課題を探った。
【関東晋慈、江口一】


ワクチンは、病原体の働きを抑えるタンパク質「抗体」を体内に作り出す
薬剤のこと。
投与により効果が生まれることを俗に「免疫をつける」などという。
生きたまま弱毒化した病原体や、その一部を用いて製造される。

接種方法は、細胞がワクチン成分を取り込みやすく、効率的に抗体を作り出す
注射が主流だ。
だが、痛い。



<インフル用も臨床へ>
そこで痛くないワクチンの開発が進んでいる。
鼻の穴に吹き付けて、粘膜に抗体を作り出す「経鼻ワクチン」は既に実用化
しており、米国ではインフルエンザ用に利用されている。

国内ではポリオで既に経鼻ワクチンが使われているが、インフルエンザ用と
しては国立感染症研究所などが開発中で、来年度から人を対象に臨床試験を
始める見通しだ。

今の国内のインフルエンザワクチンは、ウイルス粒子の一部だけを用いて
いる。
感染する能力がないため、そのまま経鼻ワクチンにしても体内に入らず抗体が
できにくい。
このため開発中のワクチンでは、免疫補助剤(アジュバント)を使って、
ワクチン成分が感染した時と同じように細胞内部に入れるよう工夫している。



<無数の小さな突起>
京都薬科大の高田寛治教授(薬物動態学)らは、皮膚に張り付けるタイプの
ワクチンを開発している。
直径約1センチのシートの表面に、基底部が直径0.3ミリ、長さ0.5ミリの
円錐状の突起(マイクロニードル)が200~300本並んだもので、2003年に
開発を始めた。
突起部分に接種したいワクチン成分が含まれている。
これを皮膚に張ると、突起の約半分の0.25ミリほどが皮膚に刺さるが、神経が
あり痛みを感じる真皮までは届かず、その外側の表皮内で折れる。
突起は体内にあるアルブミンなどのタンパク質や、コンドロイチン硫酸などの
多糖類で作られており、自然に溶けてワクチン成分が体内に取り込まれる
仕組みだ。

以前は微小なマイクロニードルを作ることが困難だったが、IT(情報技術)化
によるナノテクなど微細加工技術の発展で可能になった。

欧米の研究機関でも類似の研究が進み、突起にステンレスやチタンなどの
金属を使っているという。

高田教授は「折れて皮膚内に残っても危険のない物質でマイクロニードルを
作った。皮膚の表皮や真皮の浅い部分には免疫に関係する細胞が多く存在して
おり、免疫を効率的につけやすい利点もある」と話す。

突起自体に薬剤が含まれているため、さまざまなワクチンやホルモン薬、
インスリンの投与など幅広い分野での応用が期待される。



<途上国での普及期待><腸から効率的に>
理化学研究所などの研究チームは、腸で免疫機能を担うタンパク質を特定し、
英科学誌ネイチャーに発表した。
「飲む」「食べる」ワクチン開発に結びつくと期待される。

腸は食物を吸収するため常に異物にさらされており、微生物の侵入を防ぐ免疫
機能が非常に発達している。
しかし、その機能を持つ具体的なタンパク質や、免疫の仕組みは不明だった。

研究チームが特定したのは、「GP2」というタンパク質の機能だ。
GP2は腸のリンパ組織を覆っている「M細胞」で、体の免疫システムに
必要な物質を取り込む役割があることが分かった。

GP2に結びつきやすい化合物は既に開発されている。
これに、ワクチン成分を結びつけて腸のGP2に届けることができれば、
効率的に体内に免疫をつけることができる。

理化学研究所の大野博司チームリーダー(腸管免疫)は「飲むワクチン開発に
つながる具体的な仕組みが初めて明らかになった」と指摘する。



<粘膜上に抗体>
東京大医科学研究所の清野宏教授(炎症免疫学)によると、注射で作られる
抗体は病原体を感染後に血中で捕捉し、発症や重症化を防ぐIgG抗体だ。
一方、経鼻ワクチンなどは、粘膜上に感染そのものを防ぐIgA抗体を作る
ことが可能だ。
人の体内にはテニスコート1.5面分の粘膜があり、そのすべてでIgA抗体が
作られるようになるため、感染予防効果は大きい。

清野教授は痛くないワクチンの利点について、このほかに子どもを中心に
接種率が上がることや、注射器や針が産業廃棄物にならないため、資源が
不足し感染症対策が特に必要な途上国での普及に役立つことなどを挙げて
いる。


http://mainichi.jp/select/science/news/20091222ddm016040098000c.html   

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