[カルシウム・パラドックスとは]

(神戸大学名誉教授・葛城病院名誉院長 藤田拓男先生)
(Medical Nutrition 34号)


カルシウムの摂り方が足りないと、血管や脳には逆にカルシウムが増えて
くる・・・というのが「カルシウムパラドックス」です。
カルシウムの摂り方が足りないと、腎臓結石ができやすい・・・も
「カルシウムパラドックス」です。


血管にカルシウムが増えると当然血管は硬くなります。
これが動脈硬化です。
硬い血管は血液が通りにくく、またカルシウムが血管の収縮を起こすので、
血圧が上がります。

カルシウムの摂り方が不足している人では高血圧や動脈硬化が多く、
カルシウムを十分に摂ると快方に向かうことがわかりました。
また、明らかにカルシウム不足で起こる骨粗鬆症は、レントゲン写真でも
はっきりわかるような動脈へのカルシウム沈着と一緒に起こることが100年
以上も前から知られています。
最近では高速断層撮影という新しい方法によって、カルシウムやビタミンDの
不足している人に冠動脈の石灰化が多いことがわかりました。



「カルシウムパラドックス」は不思議な現象ですが、よく考えると当たり前の
ことです。
血液中のカルシウムはいつも一定の濃度でないと、心臓や脳の働きがおかしく
なり、生命活動そのものが危険な状態になります。
血中カルシウム濃度は必ず一定に保たれる仕組みになっています。


カルシウムの摂り方が足りないと、血液中のカルシウムは少し減ります。
すると、副甲状腺ホルモンがすぐ出てきます。
副甲状腺ホルモンの役目は、骨に働きかけてカルシウムを取り出し、血中
カルシウム濃度を一定に維持することです。
いつもカルシウム不足になっていると、常に骨からカルシウムが溶かし
出され、骨粗鬆症になります。


カルシウム不足が続いて、副甲状腺ホルモンがいつもたくさん出ていると、
骨から過剰なカルシウムが溶かし出され、余分な分は行くところがなくなって
血管や脳や軟骨の中、いろいろな細胞の中など、ふつうカルシウムがあっては
困るところに入り込んでしまうのです。
脳でカルシウムが増えると脳の細胞の働きが落ち、記憶を司る細胞が傷害
されるとアルツハイマー病が起こります。
インスリンを出す膵臓の細胞の中にカルシウムが入り過ぎると糖尿病になり、
いろいろな器官に発生するがんも細胞の中にカルシウムが入り過ぎて起こり
ます。
筋肉の力もカルシウムが入り過ぎると弱り、軟骨にカルシウムが入り過ぎると
変形性関節症や変形性脊椎症という腰や膝の痛むやっかいな病気になります。
生活習慣病といわれる病気が全部カルシウム不足によるカルシウム
パラドックスだというのは大変恐ろしいことです。



カルシウムパラドックスの1番わかりやすい例は、腎臓結石でしょう。
アメリカのハーバード大学のカーハン教授がカルシウム摂取と腎臓結石の
発症の関係について十数年間追跡調査した結果、カルシウム摂取の少ない人に
腎臓結石ができやすく、十分な人にはできにくいことがわかりました。
カルシウム摂取が足りないと、骨から余分なカルシウムが溶け出して結石に
なるのです。

骨の中には毎日食べる食事に含まれる量の何千倍ものカルシウムがあります。
また、結石のできやすい人はカルシウム不足で血液中のイオン化カルシウム
濃度の低い人、副甲状腺ホルモンの高い人、血液中のマグネシウムの高い人に
多いことがわかりました。


(Medical Nutrition 34号より)

http://www.yobou.com/contents/rensai/report/r07_02.html