[顔面神経麻痺(3)糸を張り 皮膚つり上げ]

(読売新聞 2008年4月9日)


北海道夕張郡の高杉泰生さん(72)は2004年、耳の下にできる耳下腺がんが
見つかり、北海道大病院で手術を受けた。

がんを取るために顔面神経を切ったので、手術後、顔の右半分が垂れ下がって
しまった。
ほおから口元にかけては、がんの手術と同時に耳たぶから移植した神経が
働き、次第に元に戻ったが、額は麻痺したまま。
右のまゆが、左のまぶたの高さまで垂れ下がり、ばんそうこうでつり上げ
ないと目が開かなかった。


そこで一昨年、北海道大形成外科教授の山本有平さんに、まゆを持ち上げる
手術を受けた。
頭皮を切って頭の骨に小さなチタンを3個埋め込んで糸をかけ、糸の端を額と
まゆ毛の皮膚に内側から縫い付けて、つり上げた。

「ばんそうこうがいらなくなり、元の生活に戻りました」と高杉さん。
山本さんは「以前は余った額の皮膚を切り取っていたが、額の半分だけしわが
なくなって違和感が残った。この方法だと自然な感じが再現できる」と話す。


顔面神経まひで後遺症が残っても、手術で良くなることがある。
垂れ下がった部分を引き上げる手術のほか、山本さんは神経の「バイパス
(迂回路)」を作る手術を手がける。

舌やのどの筋肉を動かす「舌下神経」という太い神経と顔面神経の間に、
耳から取った細い神経を縫ってつなげる。
顔面神経の損傷が激しい場合に有効という。

口元が完全に下がり、食べる時にこぼす、などの場合は、わきから背中に
かけての筋肉と神経を切って移植する方法もある。
全国の主な大学病院の形成外科などで実施している。



手術以外にも治療法はある。口を動かすと目が勝手に閉じる「病的共同運動」
や顔面痙攣などの後遺症が起きた場合に、手稲渓仁会病院(札幌市)耳鼻
咽喉科部長の古田康さんは、「ボツリヌス療法」を行う。

ボツリヌス菌に含まれる毒素成分をごく少量、目や口の周りに注射する。
筋肉の収縮を抑える働きがあり、症状が改善するという。
外来で注射を受けるだけで済むが、2〜5か月間しか効果がないので、繰り
返し受ける必要がある。
この治療は山形大、名古屋市立大、徳島大、愛媛大、高知大の各耳鼻咽喉科、
いなむら耳鼻咽喉科(山形市)などでも受けられる。


いずれの治療も保険がきく。
共同で治療にあたる古田さんと山本さんは「後遺症が残っても、あきらめ
ないで相談してほしい」と口をそろえる。

http://www.yomiuri.co.jp/iryou/medi/renai/20080409-OYT8T00212.htm